⑥ 運賃体系
次は、モスクワの地下鉄の運賃体系についてです。
運賃は乗車距離に関係なく、乗車1回分ずつ精算されるシステムです。また、乗り換え可能な駅で何度乗り換えても、最終目的駅の出口を出るまでは乗車1回とカウントされます。
乗車券は1回単位(1回券は50ルーブル、2回券は100ルーブル)でも買えますが、接触式の磁気カード型回数券(使い捨て)を購入すると、11回券で360ルーブルでした。(2015年5月)11回券を購入すれば、1回当たりの料金は約33ルーブル(約60円)ですから、相当割安な料金設定といえるでしょう。
駅の ◎のマークがつながっているカ所が乗り換え可能駅です。(↑)
1回券、2回券、5回券、11回券など全てこの使い捨て・厚紙製の磁気カードを使用しています。(↑)
この 磁気カードは地下鉄だけでなく、トラム(路面電車)、トロリーバス、バスとの共通乗車券となっており、モスクワ市内はいずれの交通機関を利用しても、距離に関係なく乗車回数1回単位で精算する、わかりやすくシンプルな料金体系になっています。
券売機で買えるのは1回券と2回券のみで、5回券以上は窓口で買うことになります。
券売機のパネルは英語表示も選択できるのですが、とにかくよく故障しています。全ての券売機が故障していて、乗車券は窓口でしか買えないこともしばしばです。
券売機はロシア語と英語表示を選択できます(前述)が、窓口のお姉さんはロシア語のみです。(笑)(↑)
※ 2016年3月第4週追記:
ところで、今回、あらためてモスクワ市地下鉄公社のオフィシャルサイトを確認したところ、5回券と11回券の表示がなくなっており、回数券は20回券(650ルーブル)、40回券(1300ルーブル)、60回券(1570ルーブル)の3種類だけになっていました。ロシアでは、制度改正が頻繁に行われるので常に注意が必要です。
※ 2017年3月5日追記:
2017年2月にモスクワで地下鉄を利用したみたところ、運賃が1回券55ルーブル、2回券110ルーブルに値上げされていました。同時に、回数券も20回券(720ルーブル)、40回券(1440ルーブル)、60回券(1700ルーブル)にそれぞれ値上げされていました。ロシアでは、公共料金が一度に10%以上値上げされることもめずらしくありません。
※ 2018年3月10日追記:
上記のリンクからモスクワ市地下鉄公社のオフィシャルサイトを確認すると、1回券、2回券の価格は据え置かれていますが、20回券、40回券、60回券は値上げされている他、20回以上乗車する場合は、チャージ式ICカード「トロイカ」を購入することを推奨しています。トロイカカードを利用すると、乗車1回あたり37ルーブルが引き落とされます。(2018年5月)
※ 2019年1月20日追記:
トロイカカード利用時の引き落とし金額が、乗車1回当たり38ルーブルに値上げされました。(2019年1月)
※ 2020年2月追記:
あらためてモスクワ市地下鉄公社のオフィシャルサイトを確認したところ、運賃が1回券57ルーブル、2回券114ルーブルに値上げされていました(2020年2月1日~とのこと)。同時にトロイカカード利用時の引き落とし金額が、乗車1回当たり40ルーブルに値上げされました。(↓)
※ 2021年2月追記:
あらためてモスクワ市地下鉄公社のオフィシャルサイトを確認したところ、運賃が1回券60ルーブル、2回券120ルーブルに値上げされていました(2020年2月1日~とのこと)。同時にトロイカカード利用時の引き落とし金額が、乗車1回当たり42ルーブル (中央ゾーン内の移動)、若しくは50ルーブル(中央と郊外のゾーン間の移動)に値上げされました。(↓)
https://mosmetro.ru/payment/tickets/ediniy
⑦ 駅の構造
続いて、駅の構造について見ていきましょう。
- ホーム中央に広いコンコース -
ほとんどの駅は1面2線の島型となっており、上下線の乗降ホームの間に広いコンコースを備えています。境界部には天井を支える太い柱があるため、ホームとコンコースは空間的に分離されています。(↓)
(断面図は、仮屋崎圭司先生の報告論文より引用(一部改変))
列車が到着すると、降車客はホーム上を列車と平行して移動することなく、列車と垂直方向にホームを横断して中央のコンコースへ移動し、コンコースの両端のエスカレーターへ向かって流れていく動線構造になっています。このため、降車した乗客はホームに滞留する乗車客と錯綜することはほとんどなく、円滑な乗降が可能となっています。
また中央コンコースから他の路線へ乗り換える際の通路、階段は一方通行とされ、乗客の錯綜が起こらないように動線が分離されています。
他の路線への連絡通路は基本的に一方通行とされ、通路を歩く乗客の錯綜が生じないように動線が分離されています。
- エスカレーターによる乗客の流入量の制御 -
地下深くに位置する駅では、ホームと地上の往来の手段はエスカレーターしかありません。このため、大量の乗客が一度に地下のホームに押し寄せることはなく、改札からホームまではエスカレーターの輸送量に従った定常流になります。ラッシュ時には、改札機やエスカレーターの手前に乗客が滞留することはあっても、ホームやコンコースに滞留することはほとんどありません。これもホームでのスムーズな乗り降りを可能にしている要因と思われます。
右側は出口です。乗車距離に関わらず定額の運賃システムを採用しているため、この駅には出口側の改札機はありません。一方、左側が入口の改札機です。ここでも、乗客の動線は完全に分離されています。
ラッシュ時には、エスカレーターの手前に乗客が滞留し、改札機を超えて駅舎の外側まで行列ができることもありますが、地下のホーム上に乗客があふれることはありません。
⑧ 列車の運行管理システム
- 時間帯別の等間隔運行 -
モスクワの地下鉄では、時間帯別の高頻度等間隔運行が行われているため、利用者向けの時刻表はありませんが、全ての駅の始発と終発の発車時刻は公表されています。
一方、運転士は列車ごとに作成された運行時刻表に基づいて運転するそうです。この運行時刻表には各駅を発車すべき時刻が5秒単位で記載され、加えて列車の運行間隔も記されています。(↓)
列車ごとの運行時刻表の例(運転間隔は1分35秒と記載されています。)
(仮屋崎圭司先生の報告論文より引用)
運転士は、平常時には運行時刻表記載の出発時刻に駅を発車するよう運転し、遅延が発生した際には、時刻よりも先行列車との運転間隔を優先して運転するのだそうです。このような等間隔運行を支援するため、各駅のホームの先端部にはデジタル時計が設置されています。(↓)
列車の進行方向のホーム先端部にデジタル時計が見えます。
左側は現在時刻、右側は先行列車出発後の経過時間を秒単位で表示しています。運転士は、デジタル時計で現在時刻や先行列車との運転間隔を、左側の大きな鏡でドアばさみなどがないかを確認します。
- 短い駅での停車時間 -
東京の地下鉄ではダイヤ上、1分程度の停車時間が設定されているのに対して、モスクワの地下鉄の停車時間は30秒以下に設定されています。このため、混んでいる車内では、乗客同士が声を掛け合い、次の駅で降りる客と立ち位置を交換する場面がよく見られます。
私自身も、大きなスーツケースを携えて入口付近に立ったとき、奥の方に移動するように促されたことがありました。
- 無駄のない合理的なシステム -
ホーム上での乗客の滞留が起こりにくい駅の構造に加えて、このような乗客同士の協力・コミュニケーションも、地下鉄の高頻度等間隔運行を可能にしている要因の一つのようです。
考えてみると、1分半~2分待てば次の電車が来るのなら、時刻表は必要ないでしょうし、列車の到着を告げるアナウンスも、むしろうるさいだけかもしれません。
高速で動くエスカレーター上を歩く人は多くない(モスクワの地下鉄のエスカレーターでは、空いているときは関西地方と同じく右側立ち)ですし、発車の際、ドアが突然、激しい勢いで閉まるため、駆け込み乗車もほとんど見かけません。
一見、乱暴でアバウトなようにみえますが、実はすべての要素が合理的・調和的に構成されていることに気づかされます。
このように、モスクワの地下鉄は駅のデザインが豪華で美しいだけでなく、低廉な運賃で機能的にも大変優れた市民の足であると感じました。モスクワに行ったら、一度は地下鉄に乗ってみることをお薦めします!
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