モスクワの寿司(店)事情
「レストランやカフェの客足が鈍くなったら、日本食レストランの看板を掲げればよい。そうすれば、1、2年は店を続けられるよ」・・・・こんなアネクドート(ロシアの小話)が語られるくらい、ロシアでは近年、日本食がブームになっています。ソビエト時代にも本格的な日本食レストランはあったのですが、値段が高すぎたため、利用客は一部の富裕層に限られていたのだそうです。
ソ連崩壊後、プーチン政権が誕生すると、国民の所得の伸びとともに、比較的リーズナブルな価格で食べられるロシア人経営の日本食レストランチェーンが現れるようになり、人々の健康志向の高まりとも相まって日本食人気に火がついたのだそうです。
確かにモスクワの街を歩くと、通りのあちらこちらに「Японский ресторан(イポンスキー・リスタラーン;日本のレストラン)」や 「Японская кухня(イポーンスカヤ・クッフニャ;日本料理)」などと書かれた看板を目にします。
日本食と言っても、寿司が中心なのですが、今やモスクワだけで寿司店が1,000店を超えるとも言われるまでになっているとか・・・・。ただし、中には看板を掲げただけで、他店の寿司を見てまねただけの料理を出す怪しげな店もあるようです。
ここでは、ネタや食材、米酢や醤油などを全て日本から直輸入しているような超高級店は除き、一般市民が友人同士や家族連れで週末に足を運ぶような寿司店のメニューを観てみることにします。
- いちばんぼし “ИЧИБАН БОШИ”-
まずは、モスクワ音楽院の寮のすぐ近くにある「いちばんぼし」(再掲)です。ここは、日本人オーナーが経営する寿司店で、ネタの鮮度もシャリの質感も日本で食べる寿司とほとんど遜色ありません。価格は少々高めですが、学生向けに価格を抑えたメニューも用意されていて、モスクワ音楽院の学生や地元モスクワっ子の他にも、多くの外国人で賑わっています。メニューには、寿司の他に丼物や鍋料理、薩摩揚げなどもありました。巻き寿司は「寿司ロール(СУШИ РОЛЛ)」とも呼ばれていて、モスクワの他の寿司店と同様、ロシアならではの創作的な巻き寿司もいろいろあります。日本のビール(アサヒ・スーパードライ)や地酒もおいていました。
「いちばんぼし / ИЧИБАН БОШИ」外観(再掲)
「Японский ресторан(イポンスキー・リスタラーン;日本のレストラン)」の文字も見えます。
いちばんぼし店内(再掲) 店内は木の暖かみを活かした日本風のデザインです。
アボガドの海苔巻きとお寿司盛りあわせ(再掲)
うなぎの押し寿司
サーモンとイカのにぎり
サーモンのにぎり(右)とイクラとサーモンの親子丼(左)
左の親子丼は、メニューには掲載されていない「裏メニュー」とのこと。日本人の学生が頼むと、つくってくれるそうです。
- ぎんのたき “ГИН НО ТАКИ” -
ロシア人の経営によるチェーン店です。店の Web Site によると、モスクワの他、サンクトペテルブルグや他の地方都市にもいくつかの店舗を展開しています。
昨年(2015年)の暮れに、モスクワのメインストリート、トベルスカヤ通りにある「ぎんのたき」に入ってみました。年末のしかも遅い時間に入ったので店内は閑散としていましたが、日本にいるようなインテリアの清潔なレストランでした。モスクワ中心部のメインストリートに位置していますが、価格帯はそれほど高くなく、十分美味しくいただけました。
やはりメニューは巻き寿司が中心で、日本の寿司とはテイストがかなり異なりますが、食材の組み合わせも調味料も、ロシア流に工夫されていると思いました。寿司をベースにした創作料理というところでしょうか・・・・。
トベルスカヤ通りに面した「ぎんのたき」外観(写真を撮るのを忘れたので、これは google earth からの引用です。)
ぎんのたき店内(こちらは、お店のサイトからの引用です。)
このとき食べたセットメニューです。(マグロのにぎりが転んでいます。(笑)) 見た目もお味もまずまずでした。
- 巻き寿司(СУШИ РОЛЛ)はロシア風にアレンジ -
モスクワの寿司店では、特に巻き寿司は、ロシアでも手に入りやすい食材を用いてロシア風に美しくアレンジされています。
切った巻き寿司に衣をつけて揚げた「巻き寿司の天ぷら」は、ロシアでは定番のメニューになっているそうです。「日本の寿司」と同じものを求める方にはお薦めしませんが、これはこれで、ロシアの創作料理だと思えば、話題性もあって十分楽しむことができそうです。
サーモンで巻いた巻き寿司にイクラ(ИКРА)がのっています。(左)
「イクラ」は、もともと魚の卵を意味するロシア語です。ЧЁРНАЯ ИКРА(黒いイクラ)はキャビアのことです。
右側の巻き寿司は、あぶりサーモンで巻いています。
いろいろな創作メニュー
クリームチーズ、アボガド、海苔、サーモン、マヨネーズ、筋子のコンビネーション
巻き寿司の上にエビの天ぷらがのっています。
いずれもモスクワでも比較的手に入りやすい食材を用いて、きれいにアレンジされています。
各種巻き寿司です。こちらは鰹節が使われていました。
こちらは、日本でもおなじみの「舟盛り」です。
この他、最近ではモスクワ市内のデパートやスーパーでも、パック詰めの巻き寿司などがリーズナブルな価格で売られていて、買い物に訪れる市民が買い求めて行くのだそうです。(↓)
日本でいう「デパ地下」で売られているパック詰めの巻き寿司。180ルーブル(約260円;2016年6月の為替レート)と、価格もお手頃です。
最後に、「ぎんのたき」のWeb Site から、メニューの一部をダウンロードしておきます。見た目にも美しくカラフルにアレンジされています。
右側のページの "МАКИ ДЗУСИ" の文字は「まきずし」と読みます。
右側のページの "САРАДА"の文字は「サラダ」と読みます。
右側のページの "ДЗЭНСАИ"の文字は「ゼンサイ」と読みます。
それにしても、日本食が、ロシア人にこれほどまで受け入れられているとは、モスクワに行ってみて初めて認識させられました。
この稿は、「ロシアの日本食ブーム」(中学校 社会科のしおり 2008年4月号 付録:浜野 剛氏)および、平成25年度経産省補助事業(『日本の料理と食の技(わざ)』ロシア市場進出プロジェクト)報告書の記述を参考にさせていただきました。